こんにちは。
中小企業診断士の仕事にはどんなことがあるの?って聞かれることが多いので、こんな仕事がありますという内容を連載的に紹介したいと思います。
1回目は「事業再生支援」です。
※ここで紹介する事業再生支援は、あくまでも中小企業診断士が関わることの多い内容を取り上げています。
ということで、早速始めていきましょう。
この記事の目次
仕事の内容・種類
事業再生支援とは・・・
事業再生支援は、経営状況が厳しくなった企業を立て直す仕事ですが、中小企業診断士が関わるレベルですと、自力再建が可能な企業のP/L改善(売上アップ、コスト削減など)を支援するものが多いです。
また、支援を受ける会社の多くが資金繰りに窮しているため、経営を改善する計画を策定し、債権者(主に金融機関)の合意を得て、リスケ(借入金返済額の減額や猶予)を取り付けることを最初のゴールとするパターンが多いです。
合意を取り付けたあとは、計画を実行するために会社に入り込み支援を進めていきます。
仕事の具体的な進め方
大まかな仕事の流れは以下となります。
1、デューデリジェンス(調査)の実施&窮境要因の解明
2、改善計画の策定
3、バンクミーティングの開催
4、実行支援&定期的なバンクミーティングの開催
1、デューデリジェンス(調査)の実施&窮境要因の解明
主に、事業面・財務面の2つの側面から企業の調査を行います。
事業面では対象企業の事業についてSWOT分析・3C分析・業務フロー分析などを行いその会社がどのような事業を行なっているのか、強みや弱み、取り巻く環境などを整理・分析していきます。
財務面では決算書の分析(収益性、効率性、安全性分析など)からスタートし、分析結果と実態との差異を調べていきます。
例えば在庫の中に価値がないものが含まれないか、回収不能な売上債権はないか、減価償却は正しく行われているのか、保有資産の価値はどうか、社長の個人資産などはないか・・・などです。
調査した結果を踏まえて、実態に合わせた財務諸表の作成も行います。
そして、最後になぜ厳しい状況になったのか、つまり窮境要因の解明を行い、調査報告書として成果物を作成します。
ちなみに、これらの仕事は分担して行うことが多いです。
事業面は中小企業診断士、財務面は公認会計士といった感じでチームを組んで調査・分析を行います。
ただ、案件の規模が小さいとチームを組むほどの予算がないため、事業面・財務面ともに中小企業診断士が担当するということも多いです。
そのため、再生案件に携わる中小企業診断士には事業面・財務面の両面をみるスキルを持っていることが求められます。
2、改善計画の策定
事業・財務調査報告書から導かれた内容を基に、改善していくための具体的な取り組み施策を検討していきます。
ここからは主に中小企業診断士の仕事になります。
売上を伸ばす方法・コストを削減する方法・キャッシュフローを改善する方法などを定性・定量の両面から具体化し再生計画として事業計画書にまとめていきます。
金融機関に対する返済計画なども提示します。
求められる計画期間は様々ですが、概ね3〜10年くらいの間で策定していきます。
ここで作る計画は「実抜計画」や「合実計画」などと呼ばれる要件や「3年以内の黒字化」「5年以内の債務超過解消」「有利子負債の対キャッシュフロー比率が概ね10倍以下」といった要件を満たすことが求められます。
# 関連するステークホルダーの要望に応じて変わります。
3、バンクミーティングの開催
改善計画ができれば、その内容を債権者(主に金融機関)に認めてもらうため、一同に集まる場を設けて改善計画の説明を行います。
合わせて債権者の方々に協力いただきたいこと(○年間の返済猶予や返済額の減額など)の説明を行います。
会社側からは経営者及び支援したコンサルタントが同席してミーティングに臨みます。
多くの場合は、経営者が簡単に説明したあと、計画の具体的な説明はコンサルタント側が行います。
会社の状況や債権者のスタンスにもよりますが、債権者から色々な指摘を受けて非常に厳しいミーティングになることも多いです。
全ての債権者から計画内容の合意が得られれば、中小企業診断士としての仕事は一区切りとなり、計画の実行フェーズに移ります。
しかし、合意を得られない場合は債権者と粘り強く話し合い計画内容を見直すなどして、債権者との落とし所を探っていきます。(※注釈)
それでも合意に達しない場合は、法的整理などのステップになることもあり、そうなると我々中小企業診断士の出番は無くなります。
※ 中小企業診断士は弁護士ではないので非弁行為にならないよう注意が必要です。
4、実行支援&定期的なバンクミーティングの開催
バンクミーティングで合意を得ることは一区切りではありますがゴールではありません。
あくまでもスタートラインに立てた状態です。
策定した改善計画の内容に沿って具体的な取り組みをしていきます。
企業単独で計画を実施していくのが難しい場合、中小企業診断士が入り込んで取り組みの後押しを行うことも多いです。
関与の度合いは様々です。
ターンアラウンドマネージャーとして企業の中の人間となり再建を行ったり、あくまで外部人材として定期的に企業を訪問し計画のPDCAを回したりなど、企業との取り決めによって決まります。
また、半年・1年単位でバンクミーティングを開催し、債権者に対して取り組みの状況や結果について報告します。
うまくいっていれば簡単な報告だけで終わりますが、結果が出ていないと債権者からの厳しい追及に合うこともあります。
厳しい状況に置かれている会社のバンクミーティングが近づくと胃がキリキリすることもあったりいたします。
これが毎年繰り返され、経営状況が正常化(当初の返済状況に戻る)したら卒業、さらに状況が悪化したら改善計画の再策定やさらなる金融支援の依頼といったステップへと進むこともあります。
仕事はどこからもらえるのか
中小企業診断士が関わる事業再生支援は銀行借入のリスケが多いため金融機関が必ず関わります。
そのため事業再生の案件は金融機関から持ち込まれることが多いです。
ただ、金融機関はどこに依頼するかというと、すでに取引のあるコンサルティング会社や中小企業再生支援協議会(※後述)にまず相談することが多いのため、仕事は事業再生を専門に行なっているコンサルティング会社に集まってくる傾向が強いです。
これから独立したいと考えている方で事業再生の案件をしたいと思っている方は、今から金融機関と関係を作って仕事をもらえる関係になるというのは難しいため、事業再生を専門にしている会社とパートナーになるのが現実的な選択肢となります。
また、リスケの相談をするには本来であれば債権者である金融機関1行1行と交渉する必要があります。
借入先が複数ある場合は金融機関ことに個別交渉が必要となりますが、これは企業としては相当な労力がかかり本業への影響も想定され、交渉をしている間に倒産してしまうこともありえます。
そのため公的な機関が音頭をとって交渉をスムーズにできるようにということで「中小企業再生支援協議会(以下、再生支援協議会)」という組織が全国各地に設置されており、そこに相談に行くことで金融機関の取りまとめをしてもらうことができます。
そのため、資金繰りに困った会社は「再生支援協議会」にまず相談に行くことが多いです。(金融機関から言われて行く場合と自主的に行く場合の2パターンあります。)
「再生支援協議会」所属の専門家の判断のもと、個別チームを作り改善計画を策定する支援(2次対応)にいく場合、「再生支援協議会」から指名 or コンペなどを通じてコンサルティング会社に仕事が流れていきます。
報酬ってどれくらいもらえるの
支援先の企業規模・債権規模などから判断されますが、一般的には数十万円〜数百万円くらいの報酬になります。
パートナーとして参加する場合は、パートナー会社とのお付き合いの長さ・経験・スキルなどから判断され、数万円〜数十万円の報酬が相場です。
再生案件のスペシャリストにもなると1件で100万円規模の報酬になることもあるでしょう。
ちなみに私個人は独立当初、初心者ながらパートナーコンサルタントとして再生支援の案件を色々と担当させていただきました。
その際、だいたい1案件あたり10万円〜20万円程度の報酬をいただいていました。
いいこと・大変なこと
再生支援の仕事は、中小企業診断士としての総合力が求められ、多面的なスキルも必要(事業面・財務面両面のスキル)となるため、仕事をやり遂げることで色々なレベルアップが図れます。
また、支援企業が属する業界についても詳しくなければいけないため、案件を通じてたくさんインプットする必要があり、いつの間にやら特定の業界についても詳しくなることができます。
さらに、支援を通じて経営状況が好転することができれば経営者や金融機関などから感謝のお言葉をいただくこともできるため、やりがいは高い仕事だと思います。
一方で、精神的に強くないとできない仕事だとも思います。
支援企業は、厳しい環境に置かれているため、簡単には好転しません。
さらに、置かれている状況を経営者が真摯に受け止めている場合はいいのですが、時には金融機関から言われてコンサルを受け入れているけどなんでそんなことしないといけないか・・・と思っている経営者もいるのです。
その場合、ヒアリング1つとっても非協力的でなかなか事が進みません。
そして、金融機関もここぞとばかりに自分たちでは直接言えないことを我々コンサルタントを通じて言わそうとするので、金融機関と会社の板挟みになることもしばしばです。
私も「なんでそんなことを教えないといけないんだ!!!」と電話口で社長から怒鳴られたこともあります…
また、バンクミーティングもスムーズに行くことばかりではありません。
金融機関から厳しい突き上げを食らうこともあります。
ということで、仕事としてはやりがいはあるけれど、企業経営のマイナス面に触れる事が多く、基本的には前向きな話にはなりにくいので、コンサルタントが精神的に疲弊してしまうことも多いです。
最近の動向
再生支援は、かつてはB/S改善として資産売却などが中心でしたが、その後「中小企業金融円滑化法」などが話題になりP/L改善が中心となりました。
P/L改善が主流となったことで、我々中小企業診断士の活躍の場が増えて、事業再生の仕事が中小企業診断士の仕事として大きくなっていきました。
その頃は案件の規模も大きく件数も多かったので仕事がたくさんありましたが、最近は大型の再生案件は一巡し比較的規模の小さい会社の案件が増えてきています。
そのため、1件あたりの報酬額は少なくなり、仕事という視点から見ると旨味がなくなってきているのが実情です。
ちなみに、その旨味は「事業承継支援」に移り、かつて事業再生支援をやっていた会社は事業承継支援へと看板をつけかえているところが多いです。
知っておきたい中小企業施策
経営改善計画を策定するにあたり活用できる中小企業施策は、現在では大きく2つあります。
経営改善計画策定支援事業
本事業は、金融支援を伴う本格的な経営改善の取組みが必要な中小企業・小規模事業を対象として、認定支援機関が経営改善計画の策定を支援し、経営改善の取組みを促すものです。中小企業・小規模事業者が認定支援機関に対し負担する経営改善計画策定支援に要する計画策定費用及びフォローアップ費用について、経営改善支援センターが、3分の2(上限200万円)を負担します。
引用:中小企業庁Webサイト「認定支援機関による経営改善計画策定支援事業」
中小企業者・メインバンク・専門家の3者で経営改善計画の必要があるとなった場合、本制度を使うことで専門家に支払う謝金の補助が受けられるというものです。
ある程度中小企業者が中心となってバンクミーティングを主導できる場合に活用できる制度と言えます。
早期経営改善計画策定支援
本事業は、資金繰り管理や採算管理などのより基本的な内容の経営改善の取組を必要とする中小企業・小規模事業者を対象として、認定支援機関が資金実績・計画表やビジネスモデル俯瞰図などの早期の経営改善計画の策定を支援し、計画を金融機関に提出することを端緒にして自己の経営を見直し、早期の経営改善を促すものです。早期経営改善計画策定支援に要する計画策定費用及びモニタリング費用の総額について、経営改善支援センターが、3分の2(上限20万円)を負担するものです。
引用:中小企業庁Webサイト「資金繰り管理や採算管理等の早期の経営改善を支援します」
金融支援までの必要ないけど将来に備えて経営改善計画を立てておこうという時に活用できる制度です。
こちらも利用には金融機関の同意書が必要となるため、中小企業者・金融機関・専門家の3者で相談のうえ進めて行くことになります。
補助金額は高くないためそれほど踏み込んだ計画書策定は難しいですが、ひとまず事業計画を立ててみようという時には使える制度になっています。
ただ、策定した事業計画をどう生かすのかという視点にたつと、正直なかなか使い所が難しい制度ではあります…
身につくスキル・知識
事業再生支援の仕事を通じて身につくスキル・知識をまとめてみました。
- 事業計画の策定スキル(企業の現状とあるべき姿を把握・分析し課題設定を行い、課題解決のための施策立案を行うスキル)
- 財務分析のスキル
- 業種、業界特有の知識
- 金融機関と折衝スキル
- 厳しい状況でも折れない心
- 再生支援の専門知識(企業再生の手法など)…など
まとめ
以上のように、今回は中小企業診断士の仕事として「事業再生支援」を紹介いたしました。
これから事業再生支援をしたいという方は、いきなり自分で仕事を取ろうと思っても難しい状況ですので、再生支援を専門としている会社のパートナーコンサルタントとして登録した上でスタートするのがもっともオススメの方法です。
大型な案件の数は減っていますが、逆に小規模な会社の再生支援のニーズは高まっている部分もあります。
この状況は初心者にとってはチャンスでもあります。
小規模な会社の経営改善を支援することでスキルと経験を高め、再生支援のプロフェッショナルとしての道を歩んでみてはいかがでしょうか。
平阪 靖規
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